【全国常任幹事会】 『「脱法ハウス」に見られる住まいのあり方についての見解』 を発表

新建全国常任幹事会は 『「脱法ハウス」に見られる住まいのあり方についての見解』 を発表しました。

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140710「住まいの貧困」新建見解.pdf
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「脱法ハウス」に見られる住まいのあり方についての見解

 

 2014年7月10日 

新建築家技術者集団常任幹事会 

 

 昨年5月、毎日新聞の報道により明るみにだされた「脱法ハウス」と居住者の実態は、心ある多くの国民に大きな衝撃を与えた。

 これら「脱法ハウス」は、事務所ビルを一人が寝泊まりできる程度に平面的または水平に小さく間仕切り、それぞれの「居室」には窓がなくそのため通風も採光もなく、便所は男女共用、浴室はなく共用シャワー室のみが設置されるなどおよそ居住空間とは認められない極めつきの低質さであり、2方向避難は計画されない、防災設備もないか貧弱など、危険きわまりない計画がなされている。今年になって3件の火災事故が相次いで発生し重軽傷者もでている。

 「脱法ハウス」は表向き「シェア・オフィス」としながら住民登録が可能など、事実上「住宅」として賃貸されている。敷金・礼金無し、賃借料は普通の賃貸アパート・マンションに比べて低額(居住面積・居住条件からはかなり割高)にするなど、低収入ゆえに家賃負担を軽減したい就業不安定層や、保証人不要などをうたって保証人不在の孤立した個人に焦点を当てており、入居者の多くもこのような事情にある人が多い。

 労働規制緩和の結果としての派遣労働では、労働者は職種ばかりか就業場所も固定出来ず、派遣会社の指示で様々な場所に出向する必要から、派遣労働者は交通の便利がよい都心に居住することが迫られており、「脱法ハウス」は大都市圏、特に東京などの都心に集中して作られている。さらに、これらの人々はいつでも「転居」可能の身軽さが要求されるため、身の回りのものは最小限にとどめ、家具や電気製品等は備え付けが便利とされる。

 「脱法ハウス」は生活の拠点すら否定されるこれら派遣労働者の需要に目を付け商機を見る「貧困ビジネス」である。

 低賃金と就業機会の不安定化、それに伴う貧困化と個人の孤立化、居住保障・居住に関するセーフティネットの不在、公共住宅政策の不在などの社会システムの不備、経済社会の変化と共に多様化する居住形態への建築基準法等の建築法律体系の不適応、空き家増加の反面、居住不安定層への健全な住宅供給誘導施策の不備など、「脱法ハウス」に見られる「住まいの貧困」はこれらの要素が重層的に絡み合った現象といえる。

 

国の対応

 2013年9月6日、国は国土交通省住宅局建築指導課長名で「技術的助言」と称する「多人数の居住実態がありながら防火関係規定等の建築基準法違反の疑いのある建築物に関する対策の一層の推進について」(国住指第4877号)という文書を発表した。

 この中で国交省は、これらシェア居住型の「脱法ハウス」を「貸しルーム」と規定し建築基準法上「寄宿舎」として規制していくことを表明した。

 また同日、国土交通省住宅局は、一般社団法人マンション管理業協会および公益財団法人マンション管理センター宛に「違法貸しルームへの対応について~居住者・区分所有者・管理組合の皆様へ~」という文書を発表した。

 この文書で国土交通省はマンションにおける「違法貸しルーム」への対応として、

①マンション居住者・管理組合にたいして、「貸しルーム」への改造事例があったら通報して欲しい、特定行政庁は調査して必要があれば改善を指導する

②管理組合は、特定行政庁から情報提供あるまで改修計画の承認不承認を留保する

③改装に関する承認規定を持たない管理組合に対しては管理規約の改正を促す

などを表明している。

 しかし、シェア居住型の「貸しルーム」を一律に特殊建築物たる「寄宿舎」として規制していくことには大きな問題がある。

 居室間の間仕切り壁は遮音間仕切りとしなければならないとする規定の他、これらが多く存在する東京都の「東京都建築安全条例」では、路地状敷地の禁止、敷地の接道長さ4メートル以上、居室には居室面積に応じた窓先空地をとらなければならないなどとしており、戸建ての「シェア居住住宅」は事実上成立しない。既存のマンション住戸においても居室間の遮音間仕切り不適合によって、シェア居住としてのストック利用ができないことになる。

 既存マンションの個別住戸がシェア居住利用される場合は、建築基準法上はチェックする手段がない。そこで上記「違法貸しルームへの対応について」は、マンションにおけるシェア居住を規制の対象とする観点から、マンション居住者や管理組合に大きく依存しながら、管理組合を特定行政庁の下請け化し、区分所有者の財産権に介入させる恐れも無しとしない、危うい内容となっている。

 

安定居住を保証する施策

 「住まいの貧困」克服のためには、全ての人が人間たるにふさわしい住居に住まうことが出来る権利と具体的保障の実現が基本であるが、当面、「脱法ハウス」は違法かつ不安全であることを理由にして規制の対象とし、これらに「居住」する人や、同じような境遇にあってネットカフェなどで寝泊まりする人たちを含めて追い出しを計るべきではない。

 むしろ、家賃補助制度を充実させ、公共住宅や借り上げ賃貸など低家賃で安定した居住が可能となる住居の提供などの施策を急ぐべきである。

 

既存ストック利用の低家賃住宅の供給

 大都市の都心やその周辺では、空き家が急速に増加している。これら既存ストックを利用した低家賃住宅供給は、特に木造建物の耐震改修費用が障害となって実現が困難となっている。耐震改修費用の補助などを行うことは、低家賃住宅の供給に極めて有効であり、防災の観点からも望ましいので推進すべきである。

 

建築法制の整備

 建築基準法上の見直しとして考慮すべきは、

①シェア居住型の住居については一律に「寄宿舎」として規制することはやめ、比較的小規模なものについては、マンションの住戸を含めて通常の住宅として取り扱う

②基準を超える大規模なものについては「寄宿舎」として特殊建築物とする。小規模住戸が集積して合計床面積がある基準を超える場合も同様とする

③建築基準法上、床面積100㎡以下の用途変更は「建築確認」対象外となっているが、非住居系用途から居住系用途への用途変更は、面積に関わらず「建築確認」の対象とする

などが必要と考える。

 

シェア居住は必要な住まい方

 「脱法ハウス」が床を細分割利用しており、マスコミがこれらを「シェア・ハウス」と報道したことから、「シェア・ハウス」やシェア居住一般への偏見と不信が広がった。

 しかし今日、シェア居住は重要な居住形態の一つである。

 世帯分離した若者にはまとまった住居を借りる資力はないことが多く、下宿や間借りなどシェア居住は古今東西を通じて普遍的な居住形態であったし、コレクティブ・ハウスなど都会における孤立から共生を求める居住形態として広い層からも支持され評価されてきた。グループ・ホームなどでは、入居者がそれぞれ持てる力で補いあい助け合って生きるよろこびを分かち合える、共生可能な居住形態として発展してきている。

 「シェア・ハウス」は、一般的には非定住の短期間居住であるものの、低家賃で、求めれば人間的つながりが持てる共生可能な居住形態として、社会適合の意味と可能性を持った住居である。シェア居住は低所得層が急速に増加する社会変化の中で、今後も需要は広がるものと思われる。低家賃を売り物にした「貧困ビジネス」の道具とされているのを見過ごすのではなく、全ての人が人間たるにふさわしい生活を保障する住居として整備されることが求められている。そして、地域居住の一形態として、地域になじませる方向に誘導し、住まい方は地域のコミュニティの中で解決していく施策を進めるべきである。

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